海外ミステリー

2008年2月25日 (月)

ローバート・B・パーカー「影に潜む」

■父権回復のカタルシス パーカー作品に見る男の矜持

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 ローバート・B・パーカーが「スペンサーシリーズ」を引っさげて日本デビューをしてから30数年、その間30数作、ほぼ年1作のペース。他のシリーズや単発ものもあるから、加えるとケッコウな数に上る。

 17、8作目位までは読んだが、そこでやめた。
 理由は何となくだが、スペンサーファンの冷たい視線を覚悟の上でいうと、スペンサーのご託宣にちょっと辟易、ホークのストイシズムやスーザンの理の勝った態度にもややうんざり・・・、といったところ!?
 もちろん「初秋」はケッサク大好きで何度か読み返したし、「レイチェル・ウォレス・・・」もインショウ深い。新作が待ち遠しい時期もあったし、ずいぶん楽しい時間を頂いたのも事実・・・・。

 そして、10数年ぶりに手にしたのが、「影に潜む」。これはスペンサーではなく、最近文庫化された警察署長ジェッシィ・ストーンシリーズの中の1冊。
 連続殺人ものだがちょいとヒネリがあって、被害者の傷痕はみんなふたつ。同時に異なった2丁の銃から撃たれている。果たして単独犯か複数犯か。又、被害者同士の繋がりはなく、その動機は?やがてジェッシィは自分を囮に・・・。
 まさに男はこうでなくっちゃ!を地で行ってます。
 原作はもとより訳者も同じ。従って登場人物の口調も似ていて、スペンサーだかジェッシィだかという感がしないでもない。
 でもそんなことはお構いなし、手を変え品を変え描かれるパーカーが考える男の生き様には何らのブレもない。
鼻につく向きもあろうかと思われるが、ここまで首尾一貫されるといっそ爽快さもありなんのナットクの次第・・・。

 西部劇のヒーローここに甦る!てな感じで、現代生活に鬱々たる想いの世のお父さん方に、父(男)権回復のカタルシスを供するシリーズではあります。

・・・・・・・・・・・・2008.2.25  ライター/紀尾井町

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★スペンサーシリーズ
「ゴッドウルフの行方」The Godwulf Manuscript(1973)
「誘拐」(1974)
「失投」(1975)
「約束の地」(1976)
「ユダの山羊」(1978)
「レイチェル・ウォレスを捜せ」(1980)
「初秋」(1980)
・・・他
★警察署長ジェッシィ・ストーンシリーズ
「暗夜を渉る」(1997)
「忍び寄る牙」(1998)  
「湖水に消える」(2001)  
「影に潜む」(2003)
「訣別の海」(2006)
「秘められた貌」(2007)
・・・他
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<出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』>より
■ ロバート・ブラウン・パーカー(Robert Brown Parker), 1932年9月17日 - )は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州出身の作家。
 1973年、私立探偵スペンサーを主人公としたハードボイルド小説『ゴッドウルフの行方(The Godwulf Manuscript)』で小説家デビュー。
 以後、スペンサーシリーズを中心に、ジェッシィ・ストーンシリーズ、サニー・ランドルシリーズ等がある。
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2008年1月16日 (水)

このミス4位!摩訶不思議なミステリー短編集「物しか書けなかった物書き」

■「物しか書けなかった物書き」=ロバート・トゥーイ (著), 法月 綸太郎 (編集), 小鷹 信光 (翻訳)/河出書房新社

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ロバート・トゥーイはごく初期の《EQMM》の寄稿者で、“あり得べからざること”についてのミステリ・ストーリーを書いた最も初期の作家のひとりです。 彼の出世作は「おきまりの捜査」(タイトルから想像できるように皮肉な作品でしたが)で、十年ほど前に本誌に発表されました(一九六四年四月号)。  ここにトゥーイ氏の風変わりなもうひとつの作品があります。―――――常軌を逸した、オフビートな。しかし、十分楽しんでいただけると思っています・・・・・・・。 ――エラリイ・クイーン――

■その風変わりな作品が「「物しか書けなかった物書き」
 傑作短編「おきまりの捜査」「階段はこわい」「そこは空気も澄んで」につづく4番手で、最高傑作の呼び声も高い、珍品中の珍品です。
 作者自身を戯画化したとおぼしきアル中の貧乏ライターが、酩酊しながら書いた「物」を現実化してしまう超能力を身につけて・・・・・という発端のメタフィクションで、まさにオフビート(風変わりな?)を絵に描いたような作品です。
 「おれは価値は書けないんだ」という作中の台詞は、苦しまぎれの言い訳かもしれませんが、作者の実感がこもった、深い哲学的考察のように読めます。
 ・・・そして、妻に書いた手紙文がなんと!

 ところで、文でなく絵を描いた「物」を現物と同じ値段で売っている夫婦がネット社会に出現!この作品をヒントにしたわけではないだろうが、何となくオフビートなネットショッピングサイト・・・以下、1 0 0 S H I K I さんの紹介!

■自分達が欲しいものを絵に描くことによって、それを手に入れようとしている『Wants for Sale』
Want for Saleは一風かわったショッピングサイトである。 売り物はこのサイトを運営しているカップルが欲しいものを描いた絵である(なかなかおしゃれ)。  そして売値はその描いてあるものと同じ値段なのだ(iPhoneだったら$430とかそういうことだ)。  つまりこのカップル、自分たちの欲しいものを絵に描いて、その絵を売ることでそれを手に入れる、という試みをしているのだ。  自分たちの才能とインターネットを混ぜ合わせ、現代の錬金術を実現している様が素敵である(絵に描いたものが現実になるのだから)。  しかもよく売れている。いままでにこのカップルはHalo3や、NOBUでのお寿司を手に入れているようだ。彼らの生活が垣間見れるようでなんだかほのぼのしてくる。  →Wants for Saleを見る http://www.wantsforsale.com/

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<ライター/鉄仮面>

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2007年12月18日 (火)

読者を挑発し続けるミステリー 「ウォッチメーカー」

■読者を挑発し続けるミステリー/ジェフリー・ディーヴァー「ウォッチメーカー」(池田 真紀子訳/文藝春秋)

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■ジェフリー・ディーヴァー「ウォッチメーカー」 リンカーン・ライムとアメリア・サックスを主人公にしたシリーズ第7弾である。
 2段組500ページに及ぶ大作、しかも書かれているのは、ほぼ3日間の出来事に過ぎない。それを一気に読ませる・・・・が、すんなり一気という訳にはいかない。本が重い?のである。寝転んで読むと、腕が疲れるのである!? しかも、ディーヴァーならではのドンデン返しと、それに至る張り巡らされた伏線に気が抜けない。つくづく、この作家を読むには、体力と知力?が必要なのである。

 ある日、立て続けに2件の殺人事件が起きる。死に至る時間を長引かせる極めて残酷な手口、傍らにはアンティーク時計と、ウォッチメーカーの署名。
やがて犯人は10個の同一時計を購入したことが判明、これは10人の連続殺人を意味するのか・・・。犯人の真の狙いはどこに・・・。
 これに、9.11以降のアメリカの社会状況や、警察内部の腐敗を織り交ぜながら話は展開していく。
対して、脊髄損傷で四肢麻痺になったライムと、彼の手足となって走り回るアメリア刑事、そしてスタッフたちの執念の追求劇。まさに読者も彼らと一体となって追いかけ振り回され、やがて大団円を迎え、心地よい疲れと共に、読後のひと時が訪れる・・・という次第。

 実はこのシリーズ、頭の3作(「ボーンコレクター」、「コフィンダンサー」、「エンプティチェア」)は読んだが、あとの3作はなぜか手が伸びなかった。ドンデン返しがあざとい?やり過ぎ?見え見え?いや、理に適っていて、無理がなく、鮮やかなモンです。でも、考え抜かれた分だけ読み手にちょっと重いというか、緊張を強いるというか・・・。(勝手ハ承知ノ上デス!)
 多くの読み巧者に支持され、今年の「このミス」の海外部門1位のこの作品に文句をつけるつもりはないけれど、好みの問題だから仕方がない。同じディーヴァー作品でも、短編集「クリスマスプレゼント」に見られる、軽やかで、ウイットに富んだドンデンの方が好きかな・・・、と。未読の方は、1年遅れでどうですか。オススメです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2007.12.17  ライター/紀尾井町

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ジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver, 1950年5月6日 - )<Wikipediaより>
  アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身の小説家。ミステリー・犯罪小説で知られている。
<作品>
・"Death of a Blue Movie Star"(1990年)
・『死の開幕』(越前敏弥訳,講談社[講談社文庫],2006年12月15日)
・ブラディ・リバー・ブルース (1993)
・死の教訓 (1993)
・眠れぬイヴのために (1994)
・静寂の叫び (1995)
・ボーン・コレクター (1997/1999邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・コフィン・ダンサー (1998/2000邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・悪魔の涙 (1999)
・エンプティ・チェア (2000/2001邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・監禁 (2000)
・青い虚空 (2001)
・ヘルズ・キッチン (2002)
・石の猿 (2002/2003邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・魔術師 (2003/2004邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・クリスマス・プレゼント (2003):短編集
・獣たちの庭園 (2004)
・12番目のカード (2005/2006邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
・ウォッチメイカー (2006/2007邦訳):リンカーン・ライムシリーズ
<外部リンク> Official website  http://www.jefferydeaver.com/ 

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2007年11月21日 (水)

エド・マクベイン87分署シリーズ

■87分署というもうひとつの仲間・・・エド・マクベインの遺したもの

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 この季節になると、<アイソラの街>が恋しくなってくるという、87分署シリーズファンの方も多いのではないだろうか。
1956年の第1作「警官嫌い」から50余年、55作目の「最後の旋律」で、一昨年の作者の死を以って幕を閉じた、世界中のいわゆる警察小説のお手本となった本シリーズ。

 カシャカシャと音を立てるタイプライターがパソコンに変わっても、あの重い卓上の黒電話がケータイに変わっても、走り回る刑事たちは変わらない・・・。
 そこには、東洋風な顔立ちのスティーヴ・キャレラ刑事を筆頭に、ナイフの傷跡で髪の一部が白いコットン・ホース、女性にもてるが何故かいつも不運なバート・クリング、更に、マイヤー・マイヤー、アンディ・パーカー、ハル・ウィルスなどの面々、そしてピーター・バーンズ署長がいる。加えて、彼らを取り巻く女性刑事たち、彼らを翻弄する犯罪者たちがいる。
 エド・マクベインは彼らを、時には主役に、また脇役にと配し、彩り豊かにその人生を編み上げ、まさに三ツ星シェフふう職人技を披露する。もちろん全てが極上とは言い難いが、それはそれ、味付けも一様ではなく、存分に堪能でき、そしてクセになる。

 年に一度の新作刊行が秋口だったこともあり(もしかすると購入したのが秋に多かっただけかも知れないが)、この季節になると浸りたくなるのです、<アイソラの街>に、そして87分署の仲間たちの中に・・・。

 2007.11.21/・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ライター<紀尾井町>

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<エド・マクベイン87分署シリーズ (87th precinct)>
■1950年代~:警官嫌い(1956年)/通り魔/麻薬密売人/ハートの刺青/被害者の顔/殺しの報酬/レディ・キラー/殺意の楔/死が二人を/キングの身代金
■1960年代~:大いなる手がかり/電話魔/死にざまを見ろ/クレアが死んでいる/空白の時/たとえば、愛/10プラス1/斧(おの)/灰色のためらい/人形とキャレラ/八千万の眼/警官(さつ)/ショットガン
■1970年代~:はめ絵/夜と昼/サディーが死んだとき/死んだ耳の男/われらがボス/糧(かて)/血の絆/命果てるまで/死者の夢/カリプソ
■1980年代~:幽霊/熱波/凍った街/稲妻/八頭の黒馬/毒薬/魔術/ララバイ
■1990年代~:晩課/寡婦/キス/悪戯(いたずら)/And All Through The House(未訳)/ロマンス/ノクターン/ビッグ・バッド・シティ
■2000年代~:ラスト・ダンス/マネー、マネー、マネー/でぶのオリーの原稿/歌姫/耳を傾けよ!/最後の旋律(2005年)

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2007年9月22日 (土)

今、スウェーデン産ミステリーが旬だ!

■ヘニング・マンケルの「ヴァランダー警部」シリーズ

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■おいしいヴァランダー警部シリーズ
 スウェーデンのミステリーと言えば、先ず頭に浮かぶのが、P・ヴァールー&M・シューヴァル夫妻の「マルティン・ベック」シリーズ。
 スウェーデン社会の変貌を、1年1作10年がかりで描ききったこのシリーズ、第1作「ロゼアンナ」の本邦初訳が1975年だから、なんと30数年の月日が流れた訳です。いやはや!
 そして今、おいしいと評判なのがこの「ヴァランダー警部」シリーズ。妻には引導を渡され、娘との仲もギクシャクとした侘しい一人暮らしの身。加えて、画家である父親との確執や、ラトヴィア人女性バイバへの思慕、更には人を殺めたトラウマから陥る無気力、そして涙。(なんと泣くのです)
後悔、煩悶、忸怩・・・、この悩みっぷりと、犯罪を憎む仕事っぷりの対比がなんともいい味で、この主人公に浸れるんですね。

 1作目の「殺人者の顔」から、「リガの犬たち」「白い雌ライオン」「笑う男」と続き、最新作は上下2巻の「目くらましの道」。いづれも北欧の厳しい風土を背景に据えた読み応えのある快作です。
 ひとつ個人的な好みを言わせてもらうと、あまり重厚長大?に世界を広げず、ヴァランダーが全能になることなく人間臭さを貫き通して欲しい・・・なんてことを思いつつ次回作を心待ちにしている次第です。
<ライター/紀尾井町>

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2007年9月 6日 (木)

フロスト警部シリーズ第4作、鋭意翻訳中!

■フロスト警部シリーズ/R・D・ウィングフィールド・・・「クリスマスのフロスト」「フロスト日和」「夜のフロスト」

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■フロスト警部シリーズ/R・D・ウィングフィールド/芹澤 恵(翻訳)/創元推理文庫
 「フロストの基本造型は作者のウィングフィールドにあるのではないか」
というのも、こんな偏屈なキャラクターは、偏屈な作家からしか生まれないと感じて
しまうほどの見事な偏屈ぶりの、ご存知フロスト警部である。

 仕事好きフロストである。フロストから仕事を取るとそこには何も残らない。一途ゆえ、
当然そこで人間関係に軋轢が生じる。そんなことは屁とも思わぬフロストであるが、その煽りを受けるヤツはいる。筆頭が署長のマレットであり、部下たちである。
フロストと彼らとのかみ合わない人間関係(この丁々発止がとにかく面白い)を引きずりながら物語りは進んでいく。
 下品、皮肉、非常識に洞察、ペーソスを加えたフロストの造型が際立つ人気シリーズである。
とにかく厚い。各篇とも文庫で700頁を超える大作である。登場人物も多数。多発する事件・・・。
それらを練り上げていく熟練の手法がこれまたお見事。一気呵成に読める。
過去5年間で3作という寡作ぶりも、この圧倒的な緻密さと出来映えを前にしては
文句も言えない。これからこの本を読む読者は幸せ!です。
ただ難点がないでもない。
 例えば「夜のフロスト」におけるラストのアクションシーンの描写がそうだ。
一言でいえばフロストがスーパーマンになってしまった・・・。あの不健康なフロストがなんと空中40メートルのクレーン上で活劇(?)を演じてしまうのである。
これはフロストイメージからすると多少首を傾げざるを得ないが、作者のフロストに対する愛情過多と考えるとほほえましくもある。 
 いずれにしろ、変な表現だが、登場人物が生き生きといやらしく、生活感満載で、破天荒で破綻がない。
極上のご馳走を腹いっぱいに堪能させてくれるシリーズであることに間違いはない。

この感想を書きとめて、早や5年以上・・・。
残る原作あと2篇、いつまで待たせるんですか、東京創元社さん?

 ̄ ̄ ̄\\\ ̄ ̄ ̄\\\ ̄ ̄ ̄\\\ ̄ ̄ ̄\\\ ̄ ̄ ̄\\\ ̄ ̄ ̄\\\(ライター/紀尾井町)


 


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