時代小説

2008年5月26日 (月)

江戸深川の商人魂に学べ!?

■山本一力作品「だいこん」「菜種晴れ」は、経営指南の“人情時代小説”

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 江戸・浅草・深川で一膳飯屋「だいこん」を営む長女つばきとその家族の物語。腕のいい大工だが、博打好きの父・安治、貧しい暮らしのなかで夫を支える母・みのぶ、二人の妹さくらとかえで――。飯炊きの技と抜きん出た商才を持ったつばきが、温かな家族や周囲の情深い人々の助けを借りながら、困難を乗り越え店とともに成長していく。直木賞作家が贈る下町人情溢れる細腕繁盛記。
 豆腐屋の「あかね雲」、てんぷらの「菜種晴れ」と、“食べ物”店や江戸・深川を舞台にした人情時代小説のひとつ・・・
    ◇

 偽装表示に続いて料理の使い回しが発覚した「船場吉兆」、デパ地下で刺し身使い回しの「魚きん」・・・など“お店の品格”が問われています。
 ごはん焚きに天才的な手腕を発揮した「つばき」は、17歳で一膳飯屋「だいこん」をはじめ、様々な困難を知恵とアイデア、そして何よりも「誠意」によって乗り越えてゆく・・・まさに現代の老舗経営者たちに警鐘を鳴らしているかのようです。
 この本は、ビジネス誌「プレジデント」で新世代リーダーが読む本として、推薦されています。疲れに疲れて、どうしようもないときの緊急避難にぴったりとか。とにかく、大火事や洪水にも負けず、明るく、けなげに生きる「つばき」、まさに落ち込んでいる時に元気が出る小説です!
 お客様に誠実に生きる・・・。凛とした女将つばきの経営理念など、合理主義、もうけ主義の人たちに是非学んで欲しいところです。

   ◇

 江戸深川の商人(あきんど)は、大店も小商人も、筋目だった商いを誇りとした(「梅咲きぬ」)。
 「山本一力の江戸の品格」(松枝史明)には、江戸時代、真っ当な商人は「襟を正した商売」をした、信用はお金で買えない、誇りを持ち信頼を得るためのプロに徹する、お金よりプライドが大切・・・などのことばが並んでいます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<ライター/鉄仮面>

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2008年2月 7日 (木)

でくのぼう「のぼう様」は大将の器だった

■なぜ、“でくのぼう”の忍城総大将「成田長親」は、知将石田三成に勝ち、底知れぬ将器ぶりを発揮したのか!

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 「武州忍城(おしじょう)をすり潰せ」
 秀吉から下知されたとき、三成はこの百年前に築城された忍城の絵地図を見せられた。
----湖に城が浮かんでいる。
三成は小さく驚いた。(中略)
・・・ 武州忍城は、現在の埼玉県行田市に位置した成田氏の居城である。
北は利根川、南は荒川に挟まれた行田市周辺の蓮沼地帯に浮かぶ「水の城」だ。
      ◇
 忍城城代にして忍城方総大将になった成田長親(ながちか)は、この田舎城を戦国合戦史上、特筆すべき城として後世に位置付けさせる破天荒な合戦絵巻を繰り広げる・・・
 成田家の当主氏長の従兄弟である成田長親(ながちか)はもともと・・・でくのぼう・・・「のぼう様」と呼ばれていた。
 長親は農作業を手伝うのが大好きなのだが、不器用なため農民たちは手伝われることを嫌がった。それに槍も使えない、馬にも乗れないという徹底したでくのぼうぶりであった。
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 律儀に“水攻め”にこだわり、堤防を築く三成のキマジメな戦いへの美学など秀吉側のキャラクターも面白いが、長親の取り巻きの武将たちもまたキャラが立つ連中だ。
正木丹波、留守居家老で成田家一の家老。家中で武辺の最も優れた者だけが持つ「皆朱の槍」を許された男。
柴崎和泉守、のちに大谷吉継の軍勢と長野口の攻防戦を繰り広げるのはこの巨漢の男。
酒巻靱負(ゆきえ)、敵を見渡しながら『孫子計篇』の一節を暗誦する---有能なるも敵には無能を示せ。(初歩の初歩である)
 そして、“でくのぼう様”は共に戦う中で、その「底知れぬ将器ぶり」を発揮してゆく・・・。
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 忍城大攻防戦を書下ろした時代小説『のぼうの城』(和田竜著)は、映画化が進行中だそうだ。
城戸賞受賞の注目の大型新人脚本家が自ら小説化。武・智・仁で統率する従来の武将とは異なる、駄目だが人間臭い魅力で衆人を惹きつけて止まない英傑像を提示した、まったく新しいエンタテインメント小説と言われているが、私はマネジメント本としても楽しめた。人間関係で悩む会社人・管理職必読か。
 あなたの会社(国)の「総大将」が“でくのぼう”だと嘆く前に、待てよ、もしかしたら、この“くぼう様”がこの会社(国)を再興させてくれるかもしれないと、希望を抱かせてくれること請け合い・・・。
 ちなみにカバー・イラストは今人気の漫画家オノ・ナツメさん。マンガ的なとぼけた「のぼう様」の雰囲気を醸しだしています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<ライター/鉄仮面>

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2007年9月12日 (水)

新ポスト藤沢周平か、葉室 麟

■葉室 麟 (著)『銀漢の賦 』(単行本)¥ 1,450 (税込)/第14回「松本清張賞」受賞作/文芸春秋社刊

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時代小説の新しい顔になれるか?葉室麟をしばらくマークしよう
 知らなかった作家の作品に偶然出会って、それが当りだった時の“得した感”には何ともいえないものがある。

 先日思いがけず、注目してみたい作家の作品に出くわした。作家の名は葉室麟。時代小説の書き手である。最新刊含め3冊出しているだけのようなので恐らく知名度はまだあまり高くないのではなかろうか。
 時間のある時に行きつけの書店の何ヶ所かのおなじみのコーナーに立ち寄り新しい本をチェックする日常パターンの中でふと目について手に取った一冊。
 書名は『銀漢の賦』という。耳慣れない、知らない言葉に出くわしたときに無条件で反応する前職=コピーライターの性が、このタイトルが本を手に取らせ、パラパラと中を見、斜め読みした数十秒後には読むことを決めていた。
(やはりネーミングは商品選択の重要要素?!。因みに“銀漢”とは天の川のこと。知らなかった…)

 少年の頃、ともに同じ道場で修行をした友同士であったが今では家老と一郡代に身分も隔たった二人と、ふとしたきっかけで仲良くなった農民の少年の三人が藩の派閥・権力闘争をバックにそれぞれの立場の中で生きざまを貫きつつ、友への捨てられないそこはかとない想い。そう、言ってみれば藤沢周平に相通じる世界を感じさせる、そんなテーストの筆づかい。

 乙川優三郎が一時、ポスト藤沢周平候補といわれながらすでに独自の領域に入ってしまった今、“周平臭”のする新しい作家、作品が出てくると何かうれしいものがある。
 しかも時代小説分野はここ何年か女流作家が元気で、平岩弓枝や澤田ふじ子などのベテランに伍して、宇江佐真理、諸田玲子、近藤史恵、松井今朝子等々の比較的新しい作家達が女性ファンのニーズに応えた作品を発表し続けている。それに比べて男性作家陣が少しさみしい状況だった中で葉室麟のこの作品は今後を期待させるに十分な出来栄えである。
 年齢的には決して若くはないが作家として新進気鋭。今後どう育っていくかしばらく注目してみたい。

◆『銀漢の賦』は今年度「第14回松本清張賞」受賞作。文芸春秋社刊 \1450
 葉室麟の作品には他にデビュー作『乾山晩愁』、『実朝の首』がある。

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(ライター/三紀旭 淳)


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